相続時に揉めるケースはたくさんあります。その1つが遺言書です。
一方的な内容の遺言書によって、納得がいかない相続人が不満を主張してくることがあるのです。
例えば、遺言内容が「すべての財産を○○○○に相続させる」など。
明らかに法定相続分を侵害された相続人は、絶対的な取り分(遺留分)を主張してくるのです。
遺言の内容によっては、揉めごとの種になってしまうので、遺言書作成を考えているなら遺留分には十分注意しながら作成するようにしましょう。
ですので、今回は遺留分にフォーカスして解説します。
相続時に遺留分を侵害されて悩む人は多い
冒頭で法定相続分を侵害された相続人は遺留分の主張してくるとお伝えしました。
実際に遺留分を侵害され悩んでいる人は思った以上に多いです。
その証拠として、以下の画像を見てください。

ヤフー知恵袋で「遺留分 侵害」というキーワード検索したところ、2162件もヒットしたのです。
質問をした全員が悩んでいるとは限りません。

しかし、画像のように、中には本当に悩んで相談している人もいるのです。
2000件以上もあるので、もっと読んでいけばたくさん遺留分の侵害について悩んでいると思われます。
遺留分を侵害した遺言書(遺贈)でも、効力は有効になる
そのような遺留分を侵害する内容の遺言書は、遺言書その物が無効なのかと思うかも知れませんが、そんなことはありません。
遺留分を侵害された人は、受遺者(相続人)から、遺留分だけ返還を求めることが可能です。
その他の遺言書に記載されている内容は、有効に効力が及ぶので遺言書自体が無効になるわけではありません。
例えば、このような事例でも無効になりません。
本人(孫)から見て祖父の相続をせずに、父親が亡くなってしまった数次相続の場合です。
その亡くなった父親から遺言書が発見され「財産放棄し、妹へ相続させる」の祖父の相続を放棄する旨の内容になっていたとします。
しかし、本人は、父親の財産を相続する権利がありますので、遺留分だけは確保できます。
意外と知らない法定相続と遺留分の違いを説明
何度も法定相続と遺留分という言葉が出てきましたが、法律に詳しくない人もいると思いますので、ここでは法定相続と遺留分の違いについて簡単に説明します。
まずは法定相続についてです。
法定相続とは、被相続人の財産を各相続人が法律で定められた取り分のことです。
例えば、配偶者なら相続財産の半分が取り分として法律(民法)で決まっているのです。
では、遺留分は法定相続とどう違うのでしょうか。
遺留分とは、相続人が最低限、相続財産を確保できる権利のことです。
例えば、遺言書の内容によって法定相続分の財産さえも確保できない相続人が、遺留分の割合だけは絶対にもらえるのです。
このように、法定相続は各相続人の取り分に対してですが、遺留分は相続人の絶対に侵すことのできない最低限の取り分ということになります。
以下で法定相続分について書いた記事あるので参考程度に紹介しておきます。
遺留分が請求できる人は、兄弟姉妹以外の相続人
それでは、法定相続分と遺留分について違いが分かったところで、もう少し遺留分について詳しく解説してきます。
遺留分は、すべての相続人に対して権利があるわけではありません。
民法で請求できる範囲が決まっているのです。
第1028条(遺留分の帰属及びその割合)
兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める割合に相当する額を受ける。
引用元:wikibooks
条文の赤文字を読んでもらうと分かるように兄弟姉妹以外の相続人だけが遺留分を受けることができると書かれていますね。
以下で分かりやすいようにまとめておきます。
遺留分の権利者
- 配偶者及び子(子が先に死亡している場合は、代襲相続により孫)
- 実父母(父母が先に死亡している場合は、代襲相続により祖父母)
このような相続人だけが遺留分を主張できる権利者になります。
遺留分の割合は、8パターンもある
遺留分を請求できる権利者が分かったと思います。
次にその遺留分を請求できる割合を解説します。
先ほどの民法1028条には続きがあり、遺留分の割合が記載されています。
第1028条(遺留分の帰属及びその割合)
兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める割合に相当する額を受ける。
1.直系尊属のみが相続人である場合 被相続人の財産の三分の一
2. 前号に掲げる場合以外の場合 被相続人の財産の二分の一
引用元:wikibooks
条文だけを読むと非常に分かりにくいですよね。なので、簡単に以下の表にまとめました。
相続人の組み合わせ | 配偶者 | 子 | 実父母 | 兄弟姉妹 |
配偶者のみ | 1/2 | |||
子のみ | 1/2 | |||
配偶者+子 | 1/4 | 1/4 | ||
実父母のみ | 1/3 | |||
配偶者+実父母 | 1/3 | 1/6 | ||
兄弟姉妹のみ | なし | |||
配偶者+兄弟姉妹 | 1/2 | なし |
※配偶者がいる場合、常に相続人になり、遺留分を主張できます。
表にまとめると、びっくりしたのではないでしょうか。
条文だけ読むと、こんなにパターンがあるように思わないですよね。実際に相続人の組み合わせを考えると8パターンもあるのです。
また遺留分の割合が分かると、およその金額が簡単に計算できます。
例えば、相続財産が1500万円。配偶者と実母の2人が相続人だった場合の事例で考えてみましょう。
配偶者の遺留分:1500万円×1/3=500万円
実母の遺留分:1500万円×1/6=250万円
このように、遺留分の計算ができます。
非常に簡単ですよね。なので、遺留分の金額が知りたい人は計算してみてくださいね。
法改正により、遺留侵害額請求権はお金で払う(金銭債権)
遺留分を請求することを、遺留分侵害額請求権と呼びます。
以前は、遺留分減殺請求権と呼んでいましたが、近年の法改正により遺留分侵害額請求権に変わったのです。
遺留分侵害額請求権に変わって、遺留分権利者の内容も変更がありました。
今回は、詳細な内容は割愛しますが、遺留分侵害額請求権は、遺留分の返還を「金銭債権(お金)」とするとなったのです。
ですので、相続財産が土地のみだった場合の遺留分は、「お金」で返還を求めることが可能ということです。
1年はあっという間!遺留分の請求期間には注意する
その遺留分侵害額請求権(遺留分)は、請求期間があります。
その請求期間(時効)が過ぎてしまうと、遺留分の確保ができなくなってしまうので注意が必要ですね。
請求期間とは「遺留分の侵害を知った時から1年」または、「相続開始時から10年」を過ぎると時効によって請求できなくなります。
侵害を知った時とは、遺言書の内容を知った時などです。
相続開始とは、被相続人が亡くなった時からになります。
請求期間が1年もあるからと安心するのは禁物です。ほったらかしにおくと1年間はあっという間に過ぎてしまいます。
過ぎた後に、大騒ぎしても遺留分を請求するのは不可能になってしまうので気をつけてくださいね。
遺留分の4つの対策を紹介
それでは、これから遺言書作成を考えている方は遺留分の対策しなければいけませんよね。
そうしなければ、せっかく作った遺言書のせいで残された相続人たちが揉めてしまったら元も子もないからです。
遺留分の対策を4つほど紹介します。
遺言書の付言で権利者の請求を抑制する
まず1つ目は、遺言書の付言を利用するといいでしょう。
遺言書には、法的効力のある内容と法的効力がない内容の2種類が書けるのです。
付言とは、その法的効力がない内容のことです。
しかし、法的効力がないからと言って、軽視していけません。
付言を書くことによって、遺留分の権利者に想いを伝えることができます。
例えば、障がいある長女○○○○の将来が今でも心残りです。だから、長女に財産を多く渡したいと思っています。次女○○○○には申し訳なく思っていますが、私の思いをくみ取ってもらい遺留分の主張はやめてください。
このように、法的効力がなくても遺言者の想いを遺留分権利者に伝えることで、遺留分の請求を抑える効果があります。
遺留分の対象財産を指定する
2つ目は、遺言書で遺留分の財産の指定です。
最悪、権利者の遺留分請求を防ぐことが困難だと思ったら、遺言書で優先的に減殺する財産を指定することができます。
例えば、遺留分の請求は、A財産、B財産、C財産の順から定める。
このように、遺留分の減殺する財産の指定が可能です。
権利を説得できるかがカギ!遺留分の放棄
3つ目、遺留分の放棄です。
遺留分の放棄とは、相続が開始する前に権利者が裁判所に遺留分放棄の許可を申立て、これが認容されることで事前に遺留分を放棄することです。
しかし、遺留分の放棄を権利者をさせるのは難しいと思ったほうがいいでしょう。
遺留分とは、相続人が最低限、財産を確保できる権利です。
そのような大切な権利を放棄させるには、特別な事情がある場合に限られるからです。
遺留分の支払額を見越して生命保険を活用
最後は、生命保険に加入することです。
すでに遺言者と相続人の関係が悪化しており、遺留分の主張を思い留まらせるのに不可能なことが分かっていたら、生命保険に加入するのも対策の1つです。
なぜなら、死亡保険金で遺留分を払えるようにしておくことができるからです。
そうなれば、遺言書で指定した内容で財産を渡すことが可能になるでしょう。
専門家でも事前に遺留分を正確に計算するのは不可能
以上で、遺留分についての解説は終わりです。
今現在、遺言書作成を考えているなら遺留分の対策は必須になります。
専門家は、その遺留分を考慮して遺言書作成のサポートができます。
しかし、専門家であっても将来を見越して正確に遺留分の計算をするのは不可能です。
遺言書を作るときは、その時の総財産で遺留分を計算します。
しかし、遺言書の効力が発揮されるのは、数か月後もしく数年後になるかもしれませんよね。
その間に、遺言者の財産にも処分したり変動します。ですので遺留分は相続時の財産で計算することになります。
専門家は、そのような将来の財産変動も考慮しつつ遺留分の対策を取りますが、正確に遺留分の計算ができるとは限りませんので注意が必要です。
今回は、これで以上になります。
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