会社を立ち上げた当初は大変なときもあったが、現在までどうにかやってこれた…なんて、会社の経営が安定したことに胸をなで下ろしている現経営者も多いと思います。
苦労をして、乗り越えた困難が多ければ多いほど、会社への思い入れもそれだけ大きくなるものです。そんな大切な会社を、自分の子どもが継いでくれたらと思うと嬉しいですよね。
しかし、会社の引き継ぎ時に起こる問題を整理し、対策を講じておかなければ、子どもに会社を引き継がせるどころか、会社自体も失う可能性もあります。
今回は子どもへ会社を引き継がせるときに起こり得る問題とその対策方法をご紹介します。
※ここでの会社は「株式会社」を指します。
「経営者の在任期間が長い」会社ほど、子どもに引き継がせる親族承継が多い
大切な会社を末永く存続させていくには、次の世代へと引き継いでいかなくてはなりません。
そして、我が子のように育てた会社ならば、血のつながった子どもなど、信頼できる相手に会社を任せたいと思うものです。
そうした「自分の子」や「子婿」など、親族内で会社の経営を引き継ぐことを親族承継と言います。
最近は、親族承継をせずに第三者に会社を承継させる会社も増えてきていますが、現在でも親族承継の方法を取る会社も少なくはありません。
そのことが分かるデータを以下で記しておきます。
データからは、経営者の在任期間が長いほど、親族承継をする傾向が強いことが分かります。
特に、「20年以上もの長い期間」経営者が代わらないような会社ですと、85%以上が子どもへ引き継がせる親族承継を取っていますね。
このような在任期間が極端に長い経営者は「会社を立ち上げた創業者」である場合が多く、そして創業者は、「育ててきた会社は信頼できる子どもに託したい」という想いが強いため、親族承継が選ばれるのです。
「会社」と「個人事業」では引き継ぎ方法は違う
親族承継は、経営者の事業が、「会社」か「個人事業」で引き継がせる方法が違ってきます。
まずは「会社の承継方法」を解説します。
いきなりですが、会社の所有者は誰になると思いますか?
答えは、「会社に資金を出資した人(株主)」です。
「社長」が株式会社の所有者だと一般的に思われがちですが、そうではないんですよ!
会社は、「会社に出資した株主(所有者)」と「会社の業務を執行する取締役(経営者)」に役割分担されています。これを「所有と経営の分離」と言います。
中には、配当だけを目当てとする「経営に興味がない株主(配当株主)」もいます。そのような配当株主は、第三者に経営を任せ、経営には関わってきません。このように、必ずしも株主が会社の経営者とは限らないのです。
ただし、日本の会社は9割が中小規模の会社であり、「出資した株主」自身がそのまま経営も兼ねていることがほとんどです。
そのような会社の経営者と所有者が同一人物になっている会社の引き継ぎの場合、経営者が保有している株を子どもに移動させることで、「経営権」や「会社の財産」が承継できます。
次に「個人事業の承継方法」です。
個人事業の場合、屋号は子どもに引継がせることはできません。
なぜなら、屋号は事業主が死亡したとき、税務署に廃業届出書を提出します。と同時に屋号も消滅してしまうので、引き継ぐことができないのです。
では、事業で得た財産はどうなるのか…
事業で得た財産は、事業主本人の財産に含まれ、相続手続きを経て各相続人に振り分けられてしまいます。
ただし、相続手続きの財産には、「お客さん」や「ノウハウ」は含まれていないため、後継者の子どもが個人事業主と同じ事業を新規で立ち上げれば、「お客さん」や「ノウハウ」の承継が可能になります。
子どもへ会社を渡すとき、起きる親族承継の「3つ」の問題
それでは、ここからは会社で起きる親族承継の問題について書いていきます。
さきほど、会社の親族承継は、「後継者へ株を移動させる」ことで可能とお伝えしましたが…いざ承継をするときにトラブルに繋がる、注意しなければならない多くの問題が存在します。
その中でも、特に重要な問題が3つあります。
- 親族内の相続問題
- 相続人も絡んだ経営権の問題
- 親族承継で起きるお金の問題
では、この3つを説明します。
親族内の相続問題
はじめに現経営者が亡くなったときに起こり得る親族内の相続問題です。
相続人が2人以上存在し、現経営者の財産が株に偏っていた場合、相続問題が起きる可能性があります。
私のお客様の例ですが…経営に関わらない相続人たちが配当金が欲しいために「平等に株を分けたい」と言い出し、「全株を保有したい」後継者との間で揉めてしまったのです。その時は、親族間の話し合いでどうにか済みましたが、手続き後も後継者と相続人たちの間にわだかまりが残ってしまいました。
こうなってしまえば、相続人同士の関係は容易に崩壊してしまうのが分かりますよね。
現経営者は、「うちの家族に限ってそんなことはない」と思うかもしれませんが…それは現経営者が大黒柱として家族をまとめ上げているからです。
ところが万が一、現経営者に予期しない出来事が生じ、多くの財産が相続人たちの目の前に転がってきたらどうでしょうか?
「自分が亡くなった後も、相続人同士助け合ってほしい」と思っていても、そんな現経営者の想いとは裏腹に、残した財産を巡って相続人たちが醜い相続争いを繰り広げるなんてことも決して珍しくはないのです。
このようなことが起きないように、現経営者が顕在している間に相続の対策を取るようにしましょう。
相続人も絡んだ経営権の問題
つぎに、会社の経営権の問題を解説します。
まず経営権とは、株主が会社の経営を決定できる権利です。
前項で、「中小規模の会社は、所有者と経営者は同一人物である」とお伝えしました。なので、中小規模の会社は、経営者がすべての株を保有し、経営権を持っている場合が多いです。
そのような経営者に不幸が起きた場合、保有していた株は各相続人に渡ります。会社の経営権も各相続人に分散すると同義であり、そのような状態になると経営の決定に問題が起きます。
なぜなら、経営の決定には「株保有者」の承諾が必要であり、この決定の判断が遅くなると経営の悪化に繋がってしまうためです。
例えば、現経営者の相続人が3人の場合、「1人が後継者となる相続人」で「残り2人が経営に興味がない相続人」だったとし、相続時に株を平等に1/3ずつ分けたとします。
このような場合、「定款の変更」「取締役の解散」などの会社の根本にかかわる決定には、後継者以外の2人の相続人(株保有者)の承諾も必要になるのです。
もし、この決定が会社の未来を左右する重要なものだった場合、その承諾の遅れによってビジネスチャンスを逃してしまったらどうでしょうか。
あなたの会社に相続人が複数おり、その相続人の中に後継者が決まっているならば、後継者に負担をかけないためにも、早い内に経営権の対策を取るようにしたほうがいいでしょう。
親族承継で起きるお金の問題
最後は親族承継に起きるお金の問題です。
「親族承継に起きるお金の問題」は、さらに2つに分かれます。
- 会社が借りたお金の保証問題
- 相続税や贈与税の税金問題
会社が借りたお金の保証問題
1つは会社が借りたお金の保証問題です。
多くの会社は、銀行から融資(借金)され事業を行っています。その時に、債務の保証として経営者自身が連帯保証になっています。
この連帯保証が子どもへ会社を引き継がせるときに問題となります。
なぜなら、連帯保証は相続財産にも含まれ、すべての相続人に及ぶからです。
例えば、現経営者に「後継者となる息子」と「経営に関与しない娘の2人」の計3人いたとします。
この場合、息子に会社を相続させると、娘2人にも連帯保証が相続されてしまい、債権者は後継者だけでなく相続人の娘2人にも債務を請求できてしまうのです。
その証拠に、民法で定められています。
第九百二条の二 被相続人が相続開始の時において有した債務の債権者は、前条の規定による相続分の指定がされた場合(遺産分割)であっても、各共同相続人に対し、第九百条及び第九百一条の規定(法定相続分)により算定した相続分に応じてその権利を行使することができる。
引用元:電子政府の窓口e-GOV
このように、民法902の2条で「債権者は、指定された相続分に強制されることなく、法定相続分に応じて各相続人に請求できる」旨を明確にしています。
いざ現経営者に不測の事態が生じ、そのような状況になったときに、経営に関係のない娘たちまで巻き込まれるのは親として本意ではないと思います。
そうならない為にもあらかじめ、「会社の債務をどうするのか」対策を考えておかなければいけません。
相続税や贈与税の税金問題
もう1つは「相続税」や「贈与税」の税金問題になります。
それはどんな問題かというと、現経営者の財産に対して掛かる税金を後継者が払えなくなるという問題が起きるのです。
たとえば、「相続時に自社株式の評価額が高く、他の財産と合計したら相続税が数千万円になってしまった」などはよくある話です。
そのような手持ちの個人資金で納税するのが不可能な金額ですと、会社から借りて相続税を納付することになります。
しかし、会社にも資金がなかったら…銀行から借りて(借金をして)後継者に貸すことになり、結果的に会社の財政が圧迫され経営が厳しくなってしまうのです。
後継者と会社のためを思うのならば、現経営者は税金問題も後回しにせず、早いうちから対策を取らねばならないのです。
親族承継の「3つ」の問題に対する対策方法
ここまでの説明で「親族承継で起きる問題」が分かったと思います。では、その問題に対する対策方法を解説していきます。
遺言書で「相続問題対策」と「経営権対策」
まずは、「親族内の相続問題」と「経営権の問題」の対策として遺言書があります。
遺言書を作成しておくことで、相続問題を未然に防ぐことができ、後継者のみへ株式を集中させることが可能になります。
なぜなら、遺言書に書かれている内容は、相続人で決める「遺産分割」よりも優先して効力が及ぶからです。言い換えれば、現経営者の意思で財産を引き継がせることができます。
例えば、 「後継者に株をすべて与える」と「その他の財産は、後継者以外の相続人に与える」などの遺言書を作っておくことで、後継者に経営権を集中させ会社の安定に繋がります。また、他の相続人にも財産を渡し、不平等が起きないようにできるのです。
このように現経営者は遺言書を1つの対策として考えておいてもいいでしょう。
遺言書は「完ぺき」ではない
しかし、遺言書で対策を取っていたとしても、相続人の最低限の財産取り分(遺留分)を侵害した内容は法律上、無効になってしまいます。
財産取り分の侵害とは、例えば財産が株しかないのに、「後継者だけ」に株を与える内容の場合です。
遺言書の作成時には、現経営者は「後継者へ会社を引き継がせる」だけを考えるのではなく、「後継者以外の相続人の取り分(遺留分)」にも配慮した内容にするべきなのです。
しかし、そのような遺言書を作成するのは、難しいものです。
なぜなら、遺言書は「法律に則った書き方」をしなければ、効力もないただの紙切れになってしまうからです。なので、遺言書を作成するときは、信頼できる専門家に依頼するようにしましょう。
早めの株移動で「経営権対策」と「税金対策」
「遺言書で後継者に株を引き継がせる対策を取っていても心配だ」という現経営者なら、元気なうちに株を移動させるのも有効です。
後継者に株を移動させることで、「経営権対策」と「税金対策」になります。
これまでの説明で株を後継者に集中させることは、経営権の対策になるのが分かったと思います。
株の移動の方法として「売買」と「贈与」の2種類があります。
株の移動は「株の時価」や「相続人の人数」や「後継者の状態」など様々な部分で判断しなければいけませんが、子どもへ会社を引き継がせたいと思うなら「贈与」がおすすめです。
なぜなら、贈与は、「相続時精算課税制度や納税猶予制度などの税の負担を和らげる制度」や「暦年贈与の方法」などあり、税対策が取りやすいからです。
ここで一例を挙げます。
例えば、暦年贈与を毎年行うことで「贈与税」と「相続税」の対策になります。
暦年贈与は、1年通しての贈与額110万円までなら贈与税は掛かりません。そのため、毎年110万円分は無税で株移動ができます。そして、現経営者の財産も減少することになり、相続税も抑えることができるのです。
このように、株移動は、税金対策として非常に有効な方法ですが、税対策や制度の手続きにも専門的な知識が求められますので、遺言書作成と同様に信頼できる専門家への相談は必要不可欠ですね。
銀行と事前打合わせで「借りたお金の保証対策」
最後に、会社の借金に対する連帯保証の対策です。
対策方法として「引き継がせるまでに借入金の総額を減らしておく」と「事前に債権者と連帯保証の打ち合わせをしておく」の2つがあります。
「引き継がせるまでに借入金の総額を減らしておく」については言葉通りですので、ここでは「事前に債権者と連帯保証の打ち合わせをしておく」 に焦点を当てて説明します。
債権者…つまりお金を借りている相手である銀行から承認を取っておくことで連帯保証の対策ができます。
例えば、債権者へ「現経営者の連帯保証は、後継者が引き継ぐ」旨を明確に伝えることで、後継者以外の相続人へ連帯保証の請求が行かないようにできるのです。
さきほどの「民法902の2条」には続きがあります。
第九百二条の二 被相続人が相続開始の時において有した債務の債権者は、前条の規定による相続分の指定がされた場合(遺産分割)であっても、各共同相続人に対し、第九百条及び第九百一条の規定(法定相続分)により算定した相続分に応じてその権利を行使することができる。「ただし、その債権者が共同相続人の一人に対してその指定された相続分に応じた債務の承継を承認したときは、この限りでない。 」
引用元:電子政府の窓口e-GOV
赤文字のただし書きで書かれているように、相続時の遺産分割で後継者が連帯保証を引継ぐ旨を「債権者が承認」したら、後継者以外の相続人に請求できないようになっているのです。
このことを踏まえて現経営者は、「事前に債権者と連帯保証の打ち合わせをしておくこと」で 経営に関わらない相続人に迷惑が掛けないよう対策を取ることができます。
まとめ
今回、子どもへ会社を継がせるために起きる問題とその対策をご紹介しました。
現経営者は、「子どもへ会社を引き継がせること」を考えたら、引き継ぎ時に起きる問題を把握し、早めの対策を取ることが重要です。
しかし、「遺言書」や「株移動」といった対策方法は、専門家の知識が必要になってきます。
今回は以上です。
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